最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 センチメンタルな気持ちで海に行くなんて初めてだ。

 海鳥が鳴き、潮騒の中サーファーたちが健康的な活動するのを見ながら、祥吾は煙草を咥えて火を付ける。

 普段は吸っていないが、イライラした時にはつい手が伸びてしまう。

 煙草を楽しんでいた時は、オイルライターやマッチで付けた方が美味く感じるので、こだわりを持っていた。

 けれど今はその辺で買ってきた安いライターで火を付け、辛い煙を吸う。

「はぁ……」

 強い風に乗って、吐いた煙があっという間に流れてゆく。

「……鞠花……」

 彼女の名前を呼んでも、答える声はない。

 広い空を見て「鞠花もこの空の下のどこかにいる」と言い聞かせるも、そんな綺麗事で自分の喪失感が埋められる訳がない。

「初めて愛した女なんだ」

 弱々しく呟いた言葉も、誰も聞かない。

「…………頼む、――――戻って来てくれ……っ」

 祥吾はいつもの彼にあるまじき弱音を吐く。

「何でも、――捧げるから……っ」

 気が付けば、こんなにも鞠花に惚れていた。

『失って初めて大切なものの価値に気付く』など、言い尽くされた言葉だと思っていた。

 けれど長きにわたって言われる言葉には、相応の重みがある。

「――どうして……っ」

 血を吐くような声で尋ねても、――誰も応えなかった。



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