最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 鞠花と出会った夏は終わり、秋が訪れて街にイルミネーションの明かりが灯るようになる。

 クリスマスには鞠花にプロポーズしようと思って、婚約指輪も密かにオーダーメイドで作らせていた。

 鞠花と訪れたい場所が、沢山あった。

 彼女が「美味しい」と喜ぶのを見たくて、色々なレストランに連れて行きたかった。

 子供の頃から馴染みになっている料亭の女将には、「今度婚約者を連れていきます」と伝えたばかりだった。



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「社長。顔色が優れませんので、少しファンデーションなどで肌を整えたほうが……」

 祥吾と関係を持っていた秘書の東は、彼がある時からパッタリと求めてこなくなっても、変わらず側にいた。

「……好きにしてくれ」

 祥吾はテレビ局での仕事を前に、楽屋で放心していた。

 今まで散々、ネットで〝西城鞠花〟という名前を検索しては、成果を得られず落胆していた。

 やがてヘアメイクの女性がやって来て、祥吾の肌色を整える。

 彼女は祥吾が女性と別れたらしいという話を聞いたのか、浮かれた様子で「最近オープンしたレストラン、評判がいいらしいんですよ~」と話している。

 そうする事によって、自分に〝順番〟が回ってくる事を望んでいるのだろうが、今の祥吾の耳には届いていない。

 無気力に目の前の空間を見つめる祥吾は、いつものギラギラとした生気を放っていない分、作り物のような美を醸し出していた。

 ヘアメイクの女性は一瞬手を止め、そんな彼に見惚れる。

 傍にいた東がわざとらしく咳払いをすると、彼女はハッとしてまた手を動かす。

 東は苛ついた目で祥吾とヘアメイクを見て、はばからず大きな溜め息をついた。
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