最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 彼の前から姿を消して仙台で暮らしていた間、鞠花はずっと考え続けていた。

〝修吾〟が〝鳳祥吾〟だと分かった時、最初こそこみ上げた怒りと憎しみで、我を失いそうになった。

 けれど東京を離れて仙台にある両親の墓参りをし、祖父母とも話し、沢山自分と向き合った。

 祖父はこう言った。

『鞠花がどれだけ鳳さんを憎んでも、お前の両親は生き返らないよ』

 祖母も寂しげに笑って言った。

『もし鞠花がその人を許せるなら、好きになってもいいんじゃない? 許せないなら、無理に好きになろうとする必要はない。……もしもその人を私たち紹介してくれる時がきたら、ちゃんと過去の過ちを謝る事ができて、お墓に手を合わせてくれる人ならいいね。それならきっと、私たちも許せる』

 大切な息子と嫁を喪った祖父母がそう言うのなら……、と鞠花も了承した。

 その後、鞠花は仙台の病院で勤務し、祖父母に会いに行っては笑い合い、穏やかな日々を過ごしていた。

 やがて妊娠が発覚し、祥吾が刺される事件が起こった。

 ニュースを見て心配になったが、自業自得とも感じた。

 だからあえて東京には戻らなかったし、メッセージも送らなかった。

 彼が自分を探し出し、謝ってくれるなら許してあげてもいい。

 祖父母と話して考えを固めても、そんな傲慢とも言える考えを捨てられなかったのは、鞠花の最後の意地だ。

(これもまた、運命なのかもしれない)

 溜め息をついた鞠花は目を開け、祥吾を見る。

 真剣な表情で自分を見つめ、手を握ってくる彼は、もう昔のクズの顔を完全に捨てたように思えた。

 人は過ちを犯す。

 けれど己の間違いに気づかずに進むか、気づいて改心するかは、それぞれだ。

 病院の患者にだって色んな人がいる。

 何度注意しても売店で菓子を買い込んで食べる人がいるし、隠れて酒を飲む人もいる。

 逆に不摂生が原因で入院する羽目になっても、必死で挽回しようとする人もいる。

 そして弱った時こそ、人の本質が出る。

 看護師にセクハラをしたり、怒鳴りつけたり、まるで奴隷のように扱う人もいれば、常に感謝を忘れない人もいる。

 きっと祥吾の中にある〝泥〟は、すべて出きったと思っていいのだろう。

 今後彼が悔い改めて生き直すなら、自分は傍らに立って支え、手伝っていきたい。

 恵まれた環境に胡座をかいて歪んだ育ち方をした彼が両親を殺したなら、今度は鞠花が祥吾を更生させるのが筋だ。

 彼の弱みにつけ込んで、一方的に言う事を聞かせようなんて思っていない。

 祥吾と結婚すると決めたなら、何があっても二人で話し合い、進んでいくのだ。



 殺したいほど憎くて、泣きたいほど愛しい人だから――。
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