最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 気が付けば、長年自分の心の底に溜まっていた汚泥がなくなっているのを感じた。

 世の中すべてを「くだらない」と舐めていた感覚も、自分に媚びへつらう者や女性を軽んじる気持ちも消え失せていた。

 惰性のようにあった性欲も、今はただ鞠花を愛するための行為となっている。



 今の彼が思うのは、美しい(かのじょ)に相応しい守り手にならなければいけない、という想い。

 そして志半ばにしてこの世を去った鞠花の両親の代わりに、自分が必ず彼女を幸せにし、一生尽くす事を決意した。



**



 鞠花は心の中で、両親に謝っていた。

 ――好きになってはいけない人を、好きになってごめんなさい。

 ――彼を愛する事を、許してください。



 いまだ、すべてのわだかまりを捨てて、彼の全部を赦して認めた訳ではない。

 けれど、両親が生きていたなら、「反省した人を赦せる子でいてほしい」と願うはずだ。

 鞠花は自分の事を、何の変哲もない普通の女だと思っている。

 理不尽な事があれば怒るし、腐って自棄酒をする時もある。

 実際、彼女は長い間、両親が亡くなった原因である鳳祥吾を憎み続けてきた。

 しかし〝大井修吾〟は、職場と自宅の往復を繰り返すだけの鞠花に、喜びと生きる理由をくれた。

 彼は鞠花を一人の女性として丁寧に扱い、愛してくれた。

 乾ききっていた鞠花の心は〝修吾〟に愛されてたっぷり潤った。

 今までは『仕事が生きがい』と思っていたが、〝修吾〟と一緒にいると本当は誰かに深く愛される事を望んでいたのを思い知らされた。

 だから鞠花は〝修吾〟には恩を感じていて、彼が本気で自分を愛してくれるなら、心から愛し返そうと思っていたのだ。
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