オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ
——知っているものだった。

頭の中に、何度も鳴り響く大好きな名前に、視界がゆらゆらと揺れる。

「……翼」

かすれた声がこぼれ落ちた瞬間、なんとか立っていた足から力が抜けた。

視界がぐらりと揺れ、地面が近づく。
膝にコンクリートの硬い感触がぶつかったけど、痛みは全く感じなかった。

「翼……?何言ってんの汐莉。そんなわけ……」

驚いたように一緒になってしゃがむ美咲の手が、背中に触れる。

「ちょっと俺、見てくるよ」
「まって、私も」

健太が前へ進むと、美咲もそれを追いかけていった。

取り残された私の耳には、自分の心臓の音だけが大きく鳴り響いていた。

——ドクン、ドクン。
周りのざわざわとした人の声が遠ざかっていく。

やがて、戻ってきた足音は鮮明だった。

「……足を、滑らせたって」
ぽつりと落ちてきた健太の声に、私はぎゅっと目を閉じる。

「やだっ、翼っ……いやだああああ」
数秒の空白のあと、大きな鳴き声が聞こえた。

目を開けると、地面に頭を擦り付けるようにして泣き叫ぶ美咲の姿が映る。

いまだに立ち尽くす健太を見上げると、ぎゅっと口を固く結んだ彼の目からも大粒の涙が溢れ出した。

「……手遅れだったって」
肩を震わせながら、その事実を告げた健太。

その言葉が耳に入った瞬間に、私の時間は止まった。

光も、音も、遠ざかって、世界がぐにゃりと歪む。

——嘘だ。
その願いは声にもならずに沈んでいく。

みんなが楽しみにしていた夏祭りの日。

海原翼は、この世界からいなくなった。
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