深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
 思わず声にだしてしまった柚子に気が付いたのか、隣人の彼が「どうも」と返す。
 昨夜より、だいぶリラックスした顔をしていた。

 トシさんが「今朝ぶりって、どゆこと?」と興味深そうに身を乗り出してくる。

「お隣さんなんですよ」

 柚子の説明に、店内が騒々しくなる。

「マジで? ゆずちゃんと彼、同じマンションなの? あ、ちなみに俺、トシっていいます。芸人やってます」と、隣人の彼に向かって手を差し出した。

 少し間を置いてから「九条です」と、名乗る声がした。

 九条、さん。

「九条さんね、よろしくー。俺、なんか九条さんの顔どこかで見たことある気がするんですよね。現場一緒だったりしたことありますかね?」

 九条は表情を変えずに「よく言われます」と返している。

「マスター、いつものくださーい」

 柚子はカバンを空いている座席に置いて、カウンター席へと向かった。
 自然に、九条の隣一席分を空けた席に。

「私は、野口柚子です」

 マスターが、カモミールティーをそっと置く。
 一席離れた隣では、九条がコーヒーを飲んでいる。

 昨夜とほぼ同じ構図だけれど、今夜はお互いに名前を知っている。
 それだけの事なのに、距離間が変わった気がした。

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