深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
「じゃあ、私はここで」
「はい。お疲れ様です。いってらっしゃい」
えっ、と柚子は足をとめた。
家族でも恋人でもない、ただの隣人にかけられたその言葉は、予想外に温かく、柚子の心の無防備な場所をすとんと突いた。
彼はどうやら、電車に乗るわけではないらしい。
改札を通りながら、ふと振り返ると、彼はまだそこに立っていて、通勤客の波に逆らうように一人だけ静止し、どこか茫洋と遠くを見ている。
何を考えているんだろう、と思ったのは一瞬だけ。
★
結局、今夜も会社を出たのは日付を跨ぐ辛うじて手前。
何をどう頑張っても、てっぺん近くになってしまう、と思いながら終電の時刻を確認して、ぎりぎり乗れることに気づいてホームを走る。
中目黒駅に着いて、一瞬だけ考えたものの、足は無意識のままカフェの方へ向かっていた。
帰ってもどうせすぐには眠れない。
地下への階段を降りて、ドアを開けると、いつもの空気が出迎えてくれた。
カウンターにトシさん。
奥のソファに結城さん。
マスターが磨いていたグラスを置く。
そして、カウンターの端に――昨夜の彼がいた。
「あ、今朝ぶりです」
「はい。お疲れ様です。いってらっしゃい」
えっ、と柚子は足をとめた。
家族でも恋人でもない、ただの隣人にかけられたその言葉は、予想外に温かく、柚子の心の無防備な場所をすとんと突いた。
彼はどうやら、電車に乗るわけではないらしい。
改札を通りながら、ふと振り返ると、彼はまだそこに立っていて、通勤客の波に逆らうように一人だけ静止し、どこか茫洋と遠くを見ている。
何を考えているんだろう、と思ったのは一瞬だけ。
★
結局、今夜も会社を出たのは日付を跨ぐ辛うじて手前。
何をどう頑張っても、てっぺん近くになってしまう、と思いながら終電の時刻を確認して、ぎりぎり乗れることに気づいてホームを走る。
中目黒駅に着いて、一瞬だけ考えたものの、足は無意識のままカフェの方へ向かっていた。
帰ってもどうせすぐには眠れない。
地下への階段を降りて、ドアを開けると、いつもの空気が出迎えてくれた。
カウンターにトシさん。
奥のソファに結城さん。
マスターが磨いていたグラスを置く。
そして、カウンターの端に――昨夜の彼がいた。
「あ、今朝ぶりです」