深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
 九条はまるで気にしていないようで、思案するように視線を空に向けている。

「そうですね……境界線のない音楽、とでも言うか。ジャンルに収まりたくない感じの」

 やっぱり、作る側の人みたいな言い方をしている。
 もしかしたら同業者かもしれない、と心の中で結論を下しつつ、それ以上の言葉にするのを辞めた。
 
 この店は、業界の人間は多いけれど、完全な同業者にはまだ出会ったことが無い。
 もし、同業者だったら、似た悩みを抱えていたり、色々話せるかなあと少しだけ期待したのだ。

 トシさんが「ねえマスター、ビールおかわり~。それからBGM変えてよ」と言い始めて、マスターが「嫌です」と即答する。

 いつもの流れ。
 空間の支配するゆるやかな空気に、緊張が雲散していく。
 結局、柚子が店に足を踏み入れて、一時間が経過していた。

 最後の客となっていた四人がそれぞれ帰り支度をして「おやすみなさい」の声が重なる。

 半地下から、階段を上がると夜風が冷たい。

 柚子と九条は当然のように並んで歩いた。
 同じ方向、同じマンション、同じ廊下の先に二人の部屋があるから、こればかりは仕方がない。
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