深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
「なんか変な感じですね。昨日会ったばかりなのに、もう飲み仲間みたいになっているっていいますか……」
「嫌ですか?」
「嫌じゃないですけど……」
「深夜のカフェで会う人間関係って、そういうものじゃないですか」
九条の返す言葉は、感覚的に理解出来る。
芸人のトシさんや、弁護士の結城さんとも、昼間の時間帯に出会っていたら、打ち解けるまでにはもっと時間がかかっただろう。
でも深夜二時のカウンターで隣に座ったら。
柚子が、部屋の鍵を開けようとしたとき、九条が不意にこちらを向いた。
「野口さん。――A&Rって、例えばオーディション形式の作品だったら、何人くらい審査するんですか。一年で」
かなり、唐突な質問だ。
柚子は別に不思議とも思わず、質問の答えを頭で計算していく。
「月平均でも百くらいかな……でも、ちゃんと全部聴くのが大変で」
九条は何か言いかけ、やめた。
「おやすみなさい」の言葉を残し、501号室へ帰っていく。
ドアが閉まる音を聞きながら、柚子は自分の部屋に帰ってきた。
今のはどういう意味だったんだろう、と思いながらも、衣服を脱ぎ散らしてベッドに倒れこむと、途端に睡魔が誘惑の手を差し伸べて来る。
……シャワーは朝でいいや。
目を閉じると、今日のことが順番にぽつぽつ、断片的に浮かび上がって来た。
朝の改札前、夜のカフェ、帰り道。
――なんか、仕事以外のことを、久しぶりに考えている。