深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
「整体って、効果ありますか」

 九条は、部屋に帰るのだろうか。
 柚子の疑問が言葉に出る前に、九条が先にエントランスへと入っていく。

「それなりに効きますよ! 行った日は体が軽くて、よく眠れますし」

「それはよかった」

 五階で降りて、廊下を歩く。
 足音と影が重なるのを、ぼんやりと目で追う。

「駅前の整体、24時間営業なので、お勧めです」

「野口さんが通ってる店なら腕も確かそうですね」

 そこらへんに有り触れているであろう会話なのにもかかわらず、心拍が上がる。

「ふふ、私の推しの先生紹介しますよ」

「推し、ですか」

 九条は片眉を僅かにあげ、こちらにちらりと視線を流した。
 やっと目が合った。
 それなのに、柚子は思わず続けようとしていた言葉を飲み込む。

 九条の表情は、柚子の知る――無表情に近い九条とは違う――そう、まるで射抜くような視線。

「えーっと、とっても上手な先生なので」

 何か、言いかけていた九条に、柚子は早口で、おやすみなさいを言って部屋に入った。
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