深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
 独身者向けのマンションは8畳の部屋とキッチン、バストイレは独立しているけれど、最低限で構成されている。
 
 柚子は大根を切りながら、窓から見える景色をなんとなく見た。
 近くにある私立高校の屋上にはバスケットボールコートが見える。
 部活動に勤しんでいる男子生徒たちが、ボールを手に軽やかに駆けまわっていた。
 
「こんな近くに学校あるんですね。昼間にちゃんと外を見たことなかったです」
 
「日中はここまで、わーわー言っている声が聞こえてきますよ」
 
「九条さん、昼間は部屋にいることが多いんですか」
 
「そうですね、たいてい」
 
「お仕事、部屋でできるんですか」
 
「リモートワークですから」

「あーいいなあ。私も在宅憧れます」

 オンライン会議くらいなら自宅でも出来そうだとは思うけれど、多岐にわたる資料のことを考えると、会社の方が絶対に効率が良い。

「気楽ですけどね。本当に一言も声を出さない日もあるから、ボケ防止に一日一回はLAMPに顔出すようにしているんですよ」

「あははボケ防止って、そんな歳じゃないですよね?」

 九条は柚子の質問に薄く笑って、鍋に視線を落とした。
 
 豚汁ができるまでの間、柚子は持ってきたお酒――スーパーで買った缶ビール――を二本テーブルに置く。 
 一月の昼間。
 しかも豚汁に合わせる飲み物のチョイスとして、ビールというのも変な感じがしたけど、九条が「いいですね」と言ったので良しとする。 
 野菜切りを中途半端に手伝った後は、ローテーブルの端に座って、豚汁が煮える音を聞いていた。

 この人との沈黙の時間は、LAMPでも彼の部屋でも変わらない事に何となく安心していまう。

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