深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
そこへ、タイミングが良いのか悪いのか、追い打ちをかけるようにマンションの管理会社から通知が届く。
耐震診断の結果、建て替えが検討されているという。
九条のスマートフォンにも同様のメールが入っているようで、彼は指をスライドさせながら文字を追っていた。
中目黒のあの部屋には、暫く戻れないかもしれない。
「えええ……」
柚子の呟きに、九条は迷いなく言葉を返した。
「それなら、ここにいてください」
提案はあまりに唐突で、けれど重みがあった。
「この家は広すぎますし。自由に使える部屋も余ってます」
「え、えっと……それは、九条さんにとって重くないですか。それに、私……上手く話しが進めば、近い将来『蒼』とも仕事をする可能性が有りますし……」
柚子の問いに、九条は微かに眉を寄せ、静かに、けれど強く遮った。
「野口さん。私が言いたいのは、便宜上の話だけではないんです」
一歩、彼との距離が縮まる。
「俺は、好きです。あなたが、ここにいてくれることを望んでいます」
短く、飾りのない言葉だった。
けれど、その中には数年間の沈黙と、この数ヶ月で積み上げた密やかな熱が凝縮されていた。
九条の瞳には、かつてないほど真っ直ぐな、隠しようのない恋慕が灯っている。
柚子は呼吸を忘れ、ただ彼を見つめ返した。
庭の木々が風に揺れ、柔らかな光が二人の間に差し込む。
「……少し、考えさせてください」
「ええ、もちろん」
九条は頷く。
微笑みはいつになく柔らかい。