深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった

第十一話 日常の心拍

 首都を襲った未曾有の震災から二週間。
 完全な復興にはまだ遠そうだが、それでも街は日常を取り戻しつつあった。
 柚子の仕事は専らリモートワーク。
 九条は一日に一回は、中目黒の部屋とは別に、事務所用として借りている神泉のマンションに顔を出している。
 その帰りに、食料品などの買い物を済ませて来てくれるため、柚子は完全なる引きこもり状態だ。

 甘やかされている実感はある。
 料理に関する家事は専ら九条が担当している。
 柚子はせめて皿洗いや風呂掃除、洗濯などを引き受けようとするのだが、だいたい途中で九条に仕事を取り上げられてしまう。

「もう九条さん、甘やかせすぎです」

 付き合って即同棲状態の為、甘い時間よりも日常生活の方に重心が振り切れている。
 それに対しては正直なところ、不満が無い。
 何故なら、柚子の場合久しく恋愛をしていないからだ。
 社会人になって大学時代に付き合っていた彼氏と別れてから、だいぶ時間が経過している。
 普通に付き合う、という感覚を、すっかり忘れてしまった。
 だからこそ、カフェ交わしてた時のように、501号室で一緒に食事をした時のように、その程度の関りでも柚子としては満足している。
 距離感は少し近づいたかもしれない。
 ただ、まだ九条と、そういう関係(・・・・・・)になっていない。
 つまり、今目の前に居る人と、自分が付き合いはじめたという実感が沸いてこない。

 はじまりの状況が少しだけ、特殊過ぎたのだ。
 本当にいいのかな、と思いつつ、流されるまま、二週間。


 
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