深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
 ふと気づくと、二席分の空白が、一席分に縮まっていた。

「隣、いいですか」という低く落ち着いた声を聞いた気がするし、それとも幻聴で、気づいたらただそこにいたのかもしれない。

 深夜二時の曖昧な輪郭の中では、すべてがひどく自然だった。
 黒いパーカーの人が座っていて、新しいコーヒーを頼んでいる。

「どうぞ」と言った自分の声が、初対面の相手に対するものにしては、驚くほど無防備で自然だったことに後から気づいた。

 会話もなく、名前も知らず、ただ同じカウンターで、一席分の余白を挟んで並んでいるという現状。

 不思議と、居心地は悪くなかった。

 一時間ほど経ち、カフェからの帰り際。
 会計を済ませた二人は、申し合わせたわけでもないのに、そろって同じ方向へ流れることになった。

 冬の深夜の冷たい空気が、火照った頬を撫でる。
 等間隔に響く二人の足音だけが、静まり返った住宅街に落ちていく。
 
 エントランスの自動ドアを抜け、明るいエレベーターホールで並んで立った時。

 蛍光灯の白い光の下で、柚子は初めて彼の顔をまじまじと見た。
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