深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
 スタジオ運営スタッフの一人、が毛布を出してきていた。

「野口ちゃんは?」と新田さんから声がかかる。

「ここからなら会社も歩いて戻れます。恵比寿ですし」

「うん、気をつけてね。とりあえず、本社に安否確認送った方がいい」

 新田さんの言葉に、頷きながら柚子は社用のチャットツールを立ち上げた。

 橋本:六本木にいます。様子見てから動きます
 田村:新宿で足止め。うちの部署は、歩いて帰れる人は直帰してって連絡来てた
 真下:大門で打合せ中でした。帰れるか判りませんがとりあえず歩きます

 柚子は真下のメッセージを見て、少し眉をひそめた。

 真下の自宅は確か町田である。
 大門から町田まで、歩いたら何時間かかるのだろうか。
 
 錯綜する情報と、関係各所との安否確認をしながら、柚子は会社方面ではなく自宅方面に駒沢通りを下ることにした。

 路面店は軒並みシャッターが下ろされ、ところどころ、硝子や金属の破片が落ちている。
 歩道を歩く人の数が普段の何倍もいて、みんな無言で歩いていた。
 止まっている車のクラクションが、どこかで鳴り響いている。

 かろうじて、開いているコンビニがあったので覗いたら、棚がほぼ空だった。
 水のペットボトルと板チョコレートだけ、辛うじて確保する。

 SNSに流れるニュースは、六本木ヒルズの火災とか、臨海地区の液状化とか、東京タワーの先が少し曲がったとか、今まで経験したことの無い災害状況を知らせてくる。

 街中の信号が消えているだけじゃなくて、店の明かりも、マンションのエントランスの明かりも、全部消えていた。

 街灯さえもついていない。
 ふだんはネオンや窓の明かりが川面に映るのに、今夜は真っ暗な水面が広がっていた。

 マンションのエレベーターは止まっていた。
 仕方が無いので、運動不足を呪いつつ、階段で五階まで上がった。

 玄関に身体を滑り込ませ、下駄箱の最上段に置いていた防災グッズの袋から懐中電灯を探り当てる。
 去年の防災訓練のときに、会社で配られたやつだった。
 もちろん、使うのは初めて。
 箱からも出しておらず、暗闇の中でなんとか電池を押し込む。
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