深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
 柚子は、部屋を施錠し、外へと出た。
 隣の部屋は、閉まっている。
 九条は無事だろうか。
 LAMPは。マスターは。みんな……。

 歩道橋を渡って、通りの向こう側に出ると、半地下の店へ続く階段の上には、いつものように看板が出ていた。
 通電はしていなかった。
 その代用なのか、アウトドア用品ぽいランタンが、二つ両サイドに置かれてある。

 上から階段の下を覗き込むと、店内で明かりが揺れているように見える。

 営業してる?

 扉を開けると、カウンターの中にいるマスターが片手を挙げた。
 停電の影響か、音楽も流れていない。
 各テーブルにはランタンが一つずつ。

 こんな夜じゃなければ、ただのお洒落なインテリアにしか見えない。
 デートでちょっと良い食事をした帰り、本命を口説く時に似つかわしいロマンティックな光景。

 アルバイトの大学生らしき男の子が、見覚えのある背中の主とタブレットの中を覗き込んでいる。

「ゆずちゃん、大丈夫だった?」

 マスターはいつもと同じ声のトーンだった。

「近くのスタジオにいたんで、なんとか。……グラス、割れませんでしたか」

「それがさ、一枚も割れなかったんだよね。棚の端のやつが落ちそうになったけど、直前に、レイ君が止めたので」

「趣味バスケなんで」

 アルバイトの男の子は、レイ君というらしい。
 まるでシュートするようなポーズをとって、弾けるように笑った。

 柚子も釣られて笑う。
 何気ない日常に、有り触れた会話に、安堵したのも束の間。
 再び下から突き上げる感覚に、柚子は小さな悲鳴をあげた。
 弾かれた様に振り返ったのは九条だった。

 余震は短かった。
 揺れが収まると、再びの静寂、けれど緊張を孕んだ。

「大丈夫ですか」

 九条が柚子を見ていた。
 カウンターを挟んだ向こうから、真っ直ぐに。
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