深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
夜の十一時を過ぎた頃、在来線も私鉄も運転再開の目途がつかないという公式発表が流れて、店内に居た全員ががっかりしたような顔をみせる。
灯りのみえる地下のカフェには、帰宅に疲れ切った人たちの、一時的な休憩所と化していた。
次から次へと、訪れる客――避難民に、マスターが店舗を開放したからだ。
地上に出してある看板には『どなたでもお気軽に。ペットボトルの水一本無料』と臨時で張り紙されている。
階段にまで人が溢れ始めた店内に居座るのも申し訳ない気がして柚子は思わず「真下さん、よかったら、うちに泊まりませんか」と口にしていた。
「えっと、一応ソファで寝れますし、あー部屋ちょっと色々落ちてるから片付けないとだけど」
「いいんですか」
「息子さんのこともあるし、早く動けた方がいいでしょう。歩くとしても明るくなってからの方がいいかと」
真下は一瞬だけ伺うように九条に視線を流したが、九条はタブレットのニュース配信を見たまま微動だにしない。
「よし、それじゃ、お言葉に甘えます!」
真下が財布を片手に腰を上げると、マスターが「今夜はいいですよ」と言った。
「え、でも」
「非常事態ですから。また落ち着いたら、遊びに来てください」
「ありがとうございます、必ず」
そのタイミングで九条も立ち上がった。
「俺も、一緒に出ます」
暗闇を歩くのに、灯りは一つより、二つより、三つの方が良いに決まっている。
そういうことかもしれない。
そうじゃないかもしれない。