深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
 五階にある一室のドアは大きくあけ放たれていた。
 入り口付近で途方に暮れたような顔つきで座っていたのは、恐らく同じくらいの年頃の男女。

 軽く会釈してそこを通り過ぎ、九条は501号室へ、柚子と真下は502号室へと別れる。

 懐中電灯の光に浮かび上がった室内は、先程と当たり前だが変わっていない。
 少し変わっている点は、玄関横に立てかけていた傘が倒れていたくらいだ。
 床に落ちたテレビ、粉々のグラス、水浸しの洗面所。

「野口さん、部屋……凄い事になってますね……」

 室内を見渡した真下が絶句している。
 電気は相変わらず復旧しておらず、どうやら水もガスもなにもかも止まっている。

「はい……もー片付ける気力なくって。あ、足元気をつけてください。破片があるので」

 毛布をひっぱりだして、ソファを勧めた。

「今日、本当に助かりました」

「ま、同期のよしみです」

 努めて軽く言うと真下も笑って「隣の方、いい人ですね」と脈絡無く呟く。

「そうですね」

 懐中電灯を、空になったペットボトルに光が入るよう設置する。
 室内に落とされる影の形は、見慣れないもので、現実からかけ離れ過ぎていた。

 酷く疲れているのに、眠気は一向に訪れない。
 余震が、あまりにもひっきりなしに続くので、結局柚子と真下はソファに座り込んで、ニュースサイトの情報を、外が明るくなるまで追い続けていた。

 こんな夜に、一人じゃ無くて良かったと思いながらも、隣の部屋に一人で居る九条は、今何をしているんだろうと考えていた。
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