深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
LAMPで普通で在ることが。
彼が求めていた居場所だったのかもしれない。
温かいお茶の熱が、指先からゆっくりと全身へ広がっていくのを、柚子は静かに感じていた。
ベルが静かに鳴り、扉が開いた。
そこに立っていたのは、九条だった。
つい先ほどまで、すっきりと整えられていた髪は、無惨に雨に濡れ、どっしりと重く湿っている。
九条は店内の空気に一瞬だけ目を細め、カウンターに座る柚子の姿を見つけると、その場で動きを止めた。
柚子もまた、息を呑んで彼を見つめ返す。
トシさんが「あ」と間の抜けた声を漏らし、香奈さんが「わー……」と、すべてを察したような溜息をついた。
結城さんは視線を動かさず、ただ静かにワインを喉に流し込む。
マスターだけがいつも通り「いらっしゃい」と短く告げ、新しいカップを用意した。
九条は迷いのない足取りで近づくと、柚子のすぐ隣に座った。
そこにはもう、かつて彼が頑なに守っていた一席分の空白はない。
濡れた袖が柚子の腕に触れ、冷たい水の感触と、彼特有の清廉な香りが混じり合って届く。
「……歩いてきたんですか」
柚子が掠れた声で問うと、九条は前を向いたまま「はい」とだけ答えた。
車を放り出し、降りしきる雨の中を彼女の姿を求めて彷徨っていた。
その事実を語るには、彼の濡れた肩と乱れた髪だけで十分だった。
トシさんが隣の香奈さんを伺うように見、視線を交わす。
結城さんは三杯目のワインを静かに楽しみ、マスターは九条の肩にそっと厚手のタオルをかけた。