深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった


「分からない」という言葉が、これほどまでに誠実に聞こえることがあるだろうか。
 
 嘘のない彼の告白に、柚子の胸の奥が熱くなる。

「その、昔、相手に対して、言葉にして伝えることが出来なかった自分が嫌だったから、今は、ちゃんと言ってくれるんですか?」

「はい。逃げるのは、もう終わりにしたい」

 九条が柚子を真っ直ぐに射抜いた。

「柚子さんが好きです。さっきLAMPでも言いましたが、あの曲は……カモミールティーを隣で飲むあなたを思って作ったんです」

「……分かりました」

 柚子は小さく、けれど確かな声で頷いた。

 テーブルの上で、冷めかけたカモミールティーが静かに揺れている。

「柚子さん」

「……はい」

「さっき、呼んでくれましたよね。名前で」

 柚子は顔を赤らめ、視線を泳がせた。

「……奏翔さん。話してくれて、ありがとうございます」

 九条は少しだけ目元を和らげ、彼女の手にそっと触れる。
 温もりを確かめるよう、握りこまれた。

「こちらこそ。逃げてきたことも、怖がらせたことも、全部受け止めてくれてよかった。……柚子さんが自分で気づくのを、ずっと待っていたんです。俺が、あなたを選んでいるということに」

 窓の外、雨の音はまだ続いている。

「あの、奏翔さん」

「はい」

「……もう、この家に慣れてきちゃいました。だから、もう少しだけ、ここにいていいですか」

 九条は数秒間、驚いたように目を見開いた。
 それから、いつもよりずっと柔らかく、幸福そうな溜息を吐き出した。

「……ありがとうございます。……おかえりなさい、柚子さん」

 雨が窓を叩く音は、もう怖くなかった。
 二人の境界線が、雨粒が混ざり合うように、ゆっくりと滲んでいく。
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