深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった

「気づいていないとでも、思っていましたか?」

「……気づかないで、ほしかったです……恥ずかしい」

 搾り出すような柚子の答えを聞くと、九条はもう一度、甘く、熱を帯びた声で「柚子さん」と呼んだ。

 彼の指先が、柚子の顎にそっと触れる。
 抗えない力強さと、壊れ物を扱うような優しさが同居したその感触に導かれ、柚子の顔がぐい、と上げさせられた。

 何かの答えを確かめるように一刹那だけ止まった後、九条の顔がゆっくりと重なる。

 最初は、軽く啄むように触れ、やがて、深く奪うように。
 ぽんと肩を押されて柚子の身体は呆気なくソファに沈む。
 額に、九条の前髪が触れる感触。
 背中に、長い指が忍び込んでくる。 

「ん――」
 
 九条の胸に額を預けたまま、柚子は消え入りそうな声で抗議した。

「待って、待ってください……反則です。それ」

「それ、とは?」

「分かってて言ってますよね、絶対。九条さん」

「ええまあ」

 九条は薄く笑ってから、腕の中にいる彼女を壊さないように抱き寄せた。
 柚子は軽く彼の胸を叩いたが、九条は微動だにせず、ただ意地悪そうな笑みを浮かべている。

「柚子さんがなかなか気づいてくれないから、お仕置きです」

 静かな夜のなかで、柚子は自分の鼓動が九条の胸に伝わっていくのを感じていた。
 ようやく訪れた、この甘く、息苦しい変化。

「まずい」という予感の種類が、また一段と深く、熱いものへと書き換えられていく。

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