深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった

 このデモの3コーラス目、本当に好きでした。

 あの日の、何気ない共鳴が、今、目の前の男を形作っている。

 柚子は涙が溢れるのをこらえ、その付箋を見つめる。
 九条はペンを置き、柚子を再び横たわらせると、その隣に静かに滑り込んだ。

「……体、辛くないですか」

「……奏翔さん、強引すぎます」

「ごめんなさい。余裕がなかった。あんなに必死に追いかけたのは、人生で二度目でしたから」

「一度目は?」

「この付箋を受け取った時です」

 九条は柚子の髪を愛おしげに撫で、彼女の耳元で囁いた。

「覚悟はいいですか。柚子さんが何度逃げようとしても、俺は必ず見つけ出す。あなたの無意識さえ、俺の音楽の中に閉じ込めて、一生逃がしません」

 一生、という言葉の重さ。
 普通なら震え上がるような執着なのに、なぜか今の柚子には、それが心地よい鎖のように感じられた。

「あの……」

「はい」

「えっと。……こちらこそ?」

 九条の動きが止まった。
 一秒、二秒。
 彼は不意に、くすくすと子供のように笑い声を漏らした。
 それは、『蒼』として在る彼ならば、決して見せない、崩れた笑い。

「かわいいですね、その返事は」

「何がですか。……一生逃がさないなんて言われて、なんて返せば正解なのか、分からないですよ」

「『好きです』と言えばいいんです」

「……それは、まだ、言いにくいです。恥ずかしいし、負けた気がするので」

「じゃあ、お仕置きですね」

「えっ?」
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