深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
渋谷のホテルで行われたドラマの打ち上げは、大盛況のうちにお開きとなった。
真下や橋本たちと労いを交わし、関係者を見送った柚子は、華やかな喧騒を背にしてタクシーに乗り込む。
向かう先は、中目黒。
車窓から見える十二月の街は、きらびやかなイルミネーションに彩られている。
信号待ちでふと耳を澄ませば、街頭のスクエアビジョンから『Chamomile』のメロディが流れてきた。
柚子は目を細め、静かに息を吐く。
彼が歌うことを選び、自分がその声を届ける手伝いをした。
この数ヶ月の怒涛の日々が、まるで遠い夢のように思える。
けれど、バッグの中で震えたスマートフォンが、それが現実であることを教えてくれた。
『会食、終わりました。今から向かいます』
画面に映る『奏翔さん』という名前。
たったそれだけで、一日の疲れがふわりと溶けていく。
柚子は『先に向かっています』とだけ返信し、タクシーのシートに深く背を預けた。
半地下にある、朝四時まで営業しているカフェ『LAMP』。
カフェと言っても、食事のメニューは驚くほど少なく、ドリンクが殆どだ。
夕食を済ませた後にふらりと、ひとりでも気軽に立ち寄れるその店は、カウンター席が中心。
積極的に売り上げを得ようと営業しているように見えないマスターの本業は、投資家。
カフェ経営は、趣味だそうだ。
老後はそういうのも良いかもしれない。
ほろ酔いの柚子は、だらだらと取り留めのない事を考えながら、いつもの調子で階段を降りていく。
重い扉を開けると、カウベルの音と共に、コーヒーとカモミールの香り……を、完全に上書きするような濃厚な豚骨醤油の匂いが漂ってきた。
「遅れてすみません!」
「主役の一人、遅いぞー! ほら、麺伸びる前に食え!」
真下や橋本たちと労いを交わし、関係者を見送った柚子は、華やかな喧騒を背にしてタクシーに乗り込む。
向かう先は、中目黒。
車窓から見える十二月の街は、きらびやかなイルミネーションに彩られている。
信号待ちでふと耳を澄ませば、街頭のスクエアビジョンから『Chamomile』のメロディが流れてきた。
柚子は目を細め、静かに息を吐く。
彼が歌うことを選び、自分がその声を届ける手伝いをした。
この数ヶ月の怒涛の日々が、まるで遠い夢のように思える。
けれど、バッグの中で震えたスマートフォンが、それが現実であることを教えてくれた。
『会食、終わりました。今から向かいます』
画面に映る『奏翔さん』という名前。
たったそれだけで、一日の疲れがふわりと溶けていく。
柚子は『先に向かっています』とだけ返信し、タクシーのシートに深く背を預けた。
半地下にある、朝四時まで営業しているカフェ『LAMP』。
カフェと言っても、食事のメニューは驚くほど少なく、ドリンクが殆どだ。
夕食を済ませた後にふらりと、ひとりでも気軽に立ち寄れるその店は、カウンター席が中心。
積極的に売り上げを得ようと営業しているように見えないマスターの本業は、投資家。
カフェ経営は、趣味だそうだ。
老後はそういうのも良いかもしれない。
ほろ酔いの柚子は、だらだらと取り留めのない事を考えながら、いつもの調子で階段を降りていく。
重い扉を開けると、カウベルの音と共に、コーヒーとカモミールの香り……を、完全に上書きするような濃厚な豚骨醤油の匂いが漂ってきた。
「遅れてすみません!」
「主役の一人、遅いぞー! ほら、麺伸びる前に食え!」