深夜2時。君のとなりで ――世界中が知っている彼を、私だけが知らなかった
店内に流れる、優しく、切なく、届きそうで届かない旋律。
あの日、この場所で一席分の余白をもって隣り合った二人の物語は、今や一曲の音楽となって、永遠に世界を縛り続けている。
舌の先に残るカモミールの苦味と甘みが、変わらぬ温かさで、彼女を満たしていた。
――カラン、コロン。
軽やかなベルが鳴り、新たな来客を告げる。
扉の前に立っていたのは、スーツに身を包んだ九条だった。
高級料亭での会食をどうにか切り上げてきたのだろう。
少し息を切らしているが、その瞳はまっすぐにカウンターの柚子を捉えていた。
「あれ、柚子さんもう着いていましたか? 早いな」
九条が、いつものように柚子の隣の席へと歩み寄る。
ラーメンの匂いが充満する空間に、彼特有の清廉な香りが混ざり合った。
彼は迷うことなく柚子の隣に腰を下ろすと、周囲の目など気にする様子もなく、柚子の手からカモミールのカップをすっと奪い取り、同じ場所に口をつけた。
「あ、奏翔さんっ……」
「……あんな人混みに柚子さんを置いてきたから、気が気じゃなくて。……迎えに来ましたよ」
カップ越しに落とされる、熱のこもった独占欲の視線。
香奈さんが「うわー、あてられっぱなしだわ。私も彼氏欲しい~」と笑い、トシさんが「九条さんのラーメンもあるからね!」と声をかける。
ここは、仮面を外せる唯一の場所。
深夜2時の、愛しい住人たちが集う場所。
「おかえり! 奏翔さん」
柚子が満面の笑みで迎えると、九条は「ただいま」と、世界で一番優しい声で笑った。
あの日、この場所で一席分の余白をもって隣り合った二人の物語は、今や一曲の音楽となって、永遠に世界を縛り続けている。
舌の先に残るカモミールの苦味と甘みが、変わらぬ温かさで、彼女を満たしていた。
――カラン、コロン。
軽やかなベルが鳴り、新たな来客を告げる。
扉の前に立っていたのは、スーツに身を包んだ九条だった。
高級料亭での会食をどうにか切り上げてきたのだろう。
少し息を切らしているが、その瞳はまっすぐにカウンターの柚子を捉えていた。
「あれ、柚子さんもう着いていましたか? 早いな」
九条が、いつものように柚子の隣の席へと歩み寄る。
ラーメンの匂いが充満する空間に、彼特有の清廉な香りが混ざり合った。
彼は迷うことなく柚子の隣に腰を下ろすと、周囲の目など気にする様子もなく、柚子の手からカモミールのカップをすっと奪い取り、同じ場所に口をつけた。
「あ、奏翔さんっ……」
「……あんな人混みに柚子さんを置いてきたから、気が気じゃなくて。……迎えに来ましたよ」
カップ越しに落とされる、熱のこもった独占欲の視線。
香奈さんが「うわー、あてられっぱなしだわ。私も彼氏欲しい~」と笑い、トシさんが「九条さんのラーメンもあるからね!」と声をかける。
ここは、仮面を外せる唯一の場所。
深夜2時の、愛しい住人たちが集う場所。
「おかえり! 奏翔さん」
柚子が満面の笑みで迎えると、九条は「ただいま」と、世界で一番優しい声で笑った。