One year left -家族ごっこ-
「私は、怒ってるから」 


ハンドルを掴まれたまま、思いきりそっぽを向いてみせた。


「俺に?」


「そうだよ。今日、みんなに彼氏じゃないって誤解を解くの、本当に大変だったんだから」


文句を並べているうちに、いつの間にか自転車の主導権を奪われていた。


碧くんが長い指でハンドルを握り、ゆっくりと押し歩き始める。 


私は仕方なく、彼の後ろをついていくしかなかった。


「本当のこと、言わなかったの?」


前を歩く広い背中の向こうから、低い声がまっすぐに届く。


「本当のことって何よ」


「俺にキスしたこと」


また、あの夜のことを蒸し返してくる。 


うんざりして、言葉を返さなかった。


夜の静寂に、私たちの靴底がアスファルトを削る音だけが規則正しく響いていく。


「秘密にしたんだ?」


「……しつこい」 


吐き捨てるように呟いた瞬間、碧くんがピタリと足を止めて振り返った。 


その大きな身体に遮られるようにして、私もその場へと立ち止まる。
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