One year left -家族ごっこ-
リビングの空気は暖房で暖かいはずなのに、私の指先は感覚がなくなるほど冷え切っていた。


私は二人に頭を下げる。


「バイトを辞めることにしました」


「うん。お疲れさま」


おじさんの優しく穏やかな声が、床へと降ってくる。


「今までありがとうね」


お母さんが微笑んでいるのが声だけで分かる。


「……それで、二人にお願いがあります」


ちらりと碧くんに視線を送ると、彼は腕を組んで壁にもたれ、静かに私を見ていた。


その琥珀色の瞳だけが、この部屋で唯一、これから私がつく嘘を知っている。


背中に冷たい盾を置かれたような奇妙な感覚の中、私は覚悟を決めて息を吸った。


「バイトを辞めたら、ダンススクールに通いたいです」


もう一度、頭を下げた。


自分の声が、お母さんを騙し通すための完璧な偽物になって響くのを、耳の奥で冷たく聴いていた。
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