One year left -家族ごっこ-
濡れた手をタオルで拭い、碧くんの真っ直ぐな視線を見据える。


「私は県外に出て、働きたいの」


「遠いところ、って言ったよな?母親に会えなくても、あんたは寂しくないのか?」


彼はわずかに目を細めると、「マザコンなのに」と、余計な一言が低く付け足された。


「お母さんには、おじさんがいるから。もう大丈夫」 


「そういう意味じゃないんだけど。あんたは、寂しくないかってこと」


彼は、どこまでも私自身の内面へと踏み込んでくる。 


不意に、リビングボードの棚に置かれた写真立てが、淡い光の中に浮かび上がるのが目に入った。


お母さんとおじさん。


新しい家庭。


そこには、穏やかに微笑む二人の姿だけが綺麗に切り取られていた。


「寂しくないよ」 


碧くんに今日のお礼をもう一度だけ告げると、彼が何かを言いかける前に、逃げるようにリビングを後にした。
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