One year left -家族ごっこ-
「なんか、元気ないな」


碧くんが顔を傾け、私の瞳を覗きこむ。


「……そんなことないよ」


「バイト辞めて、意外と寂しい?」


「ううん」


「どうした?」


黙り込んでしまった私の髪を、碧くんが大きな手で優しく撫でた。


彼の手のひらの熱が、冷え切っていた頭頂部からじわりと脳の奥へ染み込んでくる。


「学校で何かあったんだろ」


まるで、幼い子供をあやされているみたいだった。


「……私のほうがお姉さんなんだから、子供扱いしないでよ」


「悪いな。あんたの髪、真っ直ぐでつい触りたくなる」


繁華街のまばゆい光のなか、近くを通っていく人たちの視線が、ふいに私たちの肌に刺さる。


「触るの、禁止」


急に恥ずかしさが込み上げてきて、碧くんの手を少しだけ乱暴に振り払った。


「はいはい」


彼は建物の隅から私の自転車を引いてきて、慣れた動作でサドルにまたがる。


私は何も言わずに、その広い背中の後ろへと乗り込んだ。


いつからだろう。


何も言葉を交わさなくても、碧くんがこうして当たり前のように自転車を漕いでくれるようになったのは。
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