One year left -家族ごっこ-
いつも静かに勉強している彼のイメージと違って、今日はすごくフレンドリーな感じがした。


「ほら、やっぱり。蓮己じゃん」


唐突に、背後から華やかな声が降ってくる。


店内に満ちていたパスタの香ばしい空気を、香水の強い匂いが鋭く切り裂いた。


振り返ると、そこにはいかにも垢抜けた、綺麗な大人の女性がふたり立っていた。


彼女たちと不意に目が合う。


「彼女?」


茶化すような視線とともに、低い声が投げかけられた。


「いえ……」


「いいから、早く行って」


遮るように放たれた言葉とともに、蓮己さんがあからさまに不機嫌な顔をした。


いつもの穏やかな笑みが、一瞬にして完全に消え失せている。


「何キレてんの。まぁ、いいや。バイバイ」


ひらひらと手を振られて、私は小さく会釈を返すことしかできない。


彼女たちが店の奥の席へと消えていくと、蓮己さんは深くため息をついた。


テーブルを挟んで、彼がまとう空気が一気に重く沈み込んでいく。


「お友達のかたですか?」


「ううん」


「すごく綺麗な人たちでしたね」


「全然。ガサツだし」


はぐらかすような言葉のなかに、ずいぶん親しげな距離感を感じ取って、私はひとつの可能性に思い至る。


「もしかして、元カノさん?」


「……右のほうがね」


蓮己さんはすべてを諦めたように、ぽつりと言った。


あんなに綺麗な大人のお姉さんと、付き合っていたんだ。


蓮己さんって、本当にすごいな。


自分がまだ何ひとつ知らない大人の世界の輪郭が、彼の背後に黒々と横たわっているような気がした。


「どうして黙るの?」


突然静かになってしまった私を見て、蓮己さんが困ったように眉を下げた。
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