One year left -家族ごっこ-
「悪いけど、ここは入れないから」


突然、背後から身体を強い力で引き戻された。


一瞬の浮遊感。


視界が反転し、気づいたときには身体ごと宙に抱き上げられていた。


あまりの衝撃に、息が止まる。


「碧くん、なんで?」


サングラスをかけていても、それが碧くんだということはすぐに理解できた。


首筋から漂ってくる、冷たい夜風のようなあの匂い。


彼の顔を見つめた瞬間、私の全身の緊張は完全に消え失せていた。


私は信じられないほどの安堵に包まれ、気づいたときには彼の広い肩に必死でしがみついていた。


「……誰?」


蓮己さんの瞳から、光が完全に遮断される。


底冷えするような視線で、自分より高い位置にいる碧くんを睨み上げた。


「彼氏だけど」


碧くんが一切の揺らぎのない声で言い放った。


「彼氏?萩花からそんな話聞いたことないけど」


「こいつは秘密主義だからな」


サングラスの奥にある琥珀色の瞳が、一瞬だけ私を射抜く。


「やっぱり。男だろうとは思ったけど、」


彼は私から蓮己さんへと、視線を滑らかに戻した。


その声の温度が、一瞬で零(ぜろ)になる。


「ラブホに連れ込もうとするような男だとはな」


「違うの。蓮己さんは少し仮眠するために……」


「バーカ。ヤる以外の理由ねーから」


とっさに庇おうとした私の言葉を、彼は冷酷に一蹴した。


そして碧くんは蓮己さんを正面から見据えて、地を這うような低い声で吐き捨てる。


「おまえ、こういうことばっかしてんだろ。そうゆう奴って、一目見れば分かる」


肩に担がれたまま、私はその場から強引に連れ去られていく。


背後で蓮己さんが何かを激しく叫んでいたけれど、碧くんがその大きな背中を振り返ることは、一度としてなかった。
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