One year left -家族ごっこ-
彼が静かにベッドから立ち上がる。


私はまだ、シーツの上で身体を小さく震わせたままでいた。


首筋に残された彼の熱い痕が、じりじりと脈打つように、確かな存在感を伴って痛む。


「そのぬいぐるみは捨てろ」


「やだ……」


「そんなもので釣られるな」


「このぬいぐるみは、今日のお礼にって取ってもらっただけだよ……」


碧くんの長い腕が迷いなく伸びて、ベッドの上のぬいぐるみを掴み上げた。


大きな手のなかで顔半分が不格好に潰れていく姿が、ひどく可哀想だった。


キティちゃんには何の罪もないのに。


「返して……」


「そんなに欲しいなら、俺が新しいものを取ってやる」


「え?」


「これより大きいぬいぐるみでもいいし、2個でも3個でも好きなだけ取ってやる」


「どうして、碧くんが?」


彼は私の問いかけには、一切答えようとしなかった。


「だから、これは没収」


「捨てるの?」


「……俺の部屋に置いておく」


「キティちゃん、好きなの?」


「嫌いだ」


「ぬいぐるみ、欲しいの?」


「いらない」


「じゃあ、なんで……」


言い終わるよりも早く、私は彼の大きな身体に、力任せに抱きしめられていた。


広い胸板のなかに、私の顔が深く埋まっていく。


呼吸をすることさえ拒むようなその抱擁は、私に抵抗する隙すら、何ひとつ与えてはくれなかった。
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