One year left -家族ごっこ-
「苦しい……」


「ちょっと苦しくなってろ」


吐き出された低い声。


そのすぐ近くで、碧くんの耳が真っ赤に染まっているのに気がついた。


「どうしたの?」


「どうもしない」


「碧くん?」


問いかけに、彼はただ沈黙を守る。


彼の様子が、どこかおかしい。


いつもの傲慢な余裕はどこにもなく、まるで壊れやすいものを必死に繋ぎ止めるように、私にしがみつくような強さで抱きしめていた。


彼は、本気で私のことを心配してくれていたのだ。


抵抗するのを諦めて、私はしばらく、静かに彼の広い腕の中に身を委ねていた。


「もうあの男と会うな」


「会わないよ……」


「話しかけられても無視しろ」


「でも、同じクラスだよ……」


「二度と一緒に課題をやるな」


「たまに一緒にする約束しちゃった……」


碧くんが小さくため息をついて、私の身体からそっと腕を離した。


気まずそうに視線を逸らす彼の横顔が、夕方の静かな部屋のなかで、ひどく優しく見える。


西日に照らされた美しい頬が、耳と同じように、朱に染まって上気していた。
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