One year left -家族ごっこ-
その可愛さに目を奪われていると、彼から唐突に、耳を疑うような言葉が放たれた。


「で、お姉さんはキスをどこで覚えたの?」


「え?」


「あのとき俺にしたキスは、誰に教えてもらった?」


碧くんが私の手を上から掴み、隙間なく指を絡めてくる。


硬くて大きな手のひらの熱が、私の指先を弄ぶようにして握ったり撫でたり、密やかにふたりの境界を融かしていく。


少しそうして遊んだあと、彼はまた私に視線を戻した。


「ん?」


彼は声だけで返事を催促する。


「どうして今そんな話になるの」


「聞きたいからだけど?」


片方の眉を上げて不敵に笑う。


いつもの彼に、一瞬で戻ってしまった。


さっきまでの可愛らしさは、私を油断させるための罠だったのかと眩暈(めまい)がする。


「……私にだって少しはそうゆう経験くらい、あるからね」


自分で言って、急に恥ずかしさが込み上げてきた。


頬が染まっていくのを感じて、私はプイと横を向く。


「へぇ。それは、どこまで?」


「どこまで、って……」


「お姉さんなら、教えてくれるだろ?」


「……それとこれとは関係ないでしょ」


私は怒ったふりをして、彼の拘束をすり抜けてベッドから降りた。


「喉乾いた。下、行こ?」


「逃げるなよ」


「逃げてないもん」


「どこまでだよ」


「知らなーい」


文句を言いながらも、碧くんは私の後ろを静かについてくる。


私の背中を追う彼が、この瞬間だけは本当の弟のように可愛かった。


凍りついていた私の部屋に、ふたりの軽い足音が心地よく響き渡っていた。
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