One year left -家族ごっこ-
「着いた」


すぐ近くで響いた碧くんの声に、私はゆっくりと目を開けた。


車がずっと優しく揺れていたのが心地よくて、いつの間にか眠ってしまっていたみたいだった。


隣に座る碧くんが、長い指で前髪をさらりと掻き上げて、黒いキャップを深く被る。


その姿をぼんやりと見つめながら、キャップもすごく似合うなぁ、と思った。


ガチャリとドアが開いて、私側の席にお母さんが顔を覗かせる。


「萩花、行くわよ」


「うん」


私はゆっくりと車を出た。


やっぱり大型連休の初日ということもあって、入園口の前には気が遠くなるような長い列ができている。


「わぁ、すごい人だね……」


見慣れない賑やかな景色に少し圧倒されて、私は思わず隣に立つ碧くんを見上げた。


「動物園なんて、ガキの頃に行ったっきりだな」


「私も……」


前を歩いていく、おじさんとお母さんの後ろをそっとついていく。


楽しそうな家族連れとすれ違うたび、私の頭のなかでお父さんの優しい笑顔が不意に思い出された。


今はもう戻らない、断片的な記憶。


それが胸の隙間の静かな暗がりに、小さな灯りのように浮かんでは、また消えていく。
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