One year left -家族ごっこ-
「ちょっと……!」


私は自由な方の片手で碧くんの頭をぐっと押したけれど、彼は頑なに離れてくれない。


「碧くんってば!」


「……なに?」


胸元に顔をうずめたまま、くぐもった声が返ってくる。


「やめて」


私がもう一度強く言うと、碧くんはようやくゆっくりと顔を上げた。


「彼氏にしてって、……本気で言ってるの?」


「俺はいつも素直だって言っただろ」


そう言って、碧くんは私を締め付けていた腕を緩め、ようやく身体を離してくれた。


私は張り詰めていた緊張が一気に解け、安堵から小さくため息をついて碧くんの隣に腰かける。


手にしたままだったグラスを、ローテーブルの上にそっと置いた。


「私、考えてた」


「なにを?」


「碧くんが、いつから私に優しくなったのかなって」


「それで?」


碧くんがおもむろに私の手を上から包み込むようにして握った。


大きな手のひらの温かさが肌に伝わってくる。


「私のダンスを綺麗だと言ってくれたのを思い出した。私を綺麗だって……」


その瞬間、彼は握りしめていた私の手を、自分の唇の前へと引き寄せた。


そして、逃がさないように視線を合わせたまま、私の手の甲に、優しく、けれど確かに触れるような、軽いキスをした。
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