One year left -家族ごっこ-
「ごめんね」


だけど私は、その気持ちに応えることができない。


自分の鎖骨に置かれた彼の大きな手を、そっと包み込むようにして握り直した。


「……もう、いいよ」


諦めをにじませた、碧くんの低い声。


ほっとした瞬間、心拍が不規則に波打つ。


碧くんの視線が、私の目元からゆっくりと唇へと落ちた。


「弟でも、姉でも、家族でも。……あんたが俺を好きじゃなくても」


途切れた息の隙間に、彼の脆さが剥き出しになる。


その切なさに胸を容赦なく締め付けられ、息が詰まった。


好きじゃないわけじゃない。


嫌いなんかじゃない。


嫌いなんて全然思ってない。


ただ、私は碧くんを私の背負うものに巻き込みたくないだけだ。


「もう何でもいいから、もう少しだけ、萩花に触れてもいい……?」


確かめるような、縋(すが)るような響き。


私を恐れるように不確かに揺らいでいた。


あの冷徹な碧くんはどこにもいない。


どうして彼はそこまでして私に触れたいと思うのだろう。


私を好きだと言うのだろう。


ずるい、と思った。


そんなふうに痛々しく請(こ)われたら、心臓を縛り上げられたように胸が苦しくて、指先ひとつすら動かせなくなってしまう。


私の反応を窺(うかが)うように、彼の顔がゆっくりと近づいてくる。


ダメ、と拒む言葉は喉の奥に張り付いたまま、出てこない。


私たちの唇が、静かに重なった。


それは、痛いほどに、優しいキス……。


拒むべきだった。


突き放すべきだった。


小さい頃から、ずっと心に決めていた。


私は一人で、罪を背負って生きていくのだと。


それなのに、私の手は意志を裏切り、吸い寄せられるように碧くんの背中へと伸びていく。


衣服の擦れる音が、深夜のリビングに小さく響いた。


彼の背中に触れた指先が、その熱を求めるように強く、彼の衣服を掴んでしまう。


やがて、彼がそっと唇を離した。


「どこにも行かせたくない……」


吐息が触れ合う距離で交錯する瞳。


碧くんの悲痛な声が、低く溶けていく。
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