One year left -家族ごっこ-
「もう、終わっちゃった……」


砂の上に落ち、急速に黒く冷めていく火の玉。


それを見つめながら、「短いね」と小さく呟いた。


「人の命も、こんなもんだと思わない?」


碧くんの瞳のなかに、蝋燭の火がゆらゆらと揺らめいている。


「あっけなく終わる」


「……そんなこと、言わないで」


お父さんの記憶が蘇り、胸がどくりと音を立てる。


思わず立ち上がろうとした私の手首を、彼の手が強く掴んで引き留めた。


「人の命は短い。俺はそう思ってる」 


碧くんの指先が、次の線香花火に命を灯した。


ぽってりと実った火の玉から、無数の金色の針が、夜の帳(とばり)を滑るように放たれていく。


「萩花は、何のために生きてる?」


パチ、パチ、と音を立てて爆(は)ぜるたび、光の糸は幾重にも折り重なり、闇の中に淡い光のレースを編み上げていく。


それはまるで、自らの命の時間を一本一本紡ぎ出しているようだった。


「お母さんに尽くす、ため……」 


ぽろりと、本音が溢れ出てしまった。


「あんたの母親は、自分の手で新しい幸せを掴んだ」


光の筋が一本、また一本と細くなり、世界から引き算されていく。


放たれる金の糸は、まるで溶けていく幻灯の記憶のように、淡く、はかなく、その輪郭を消していく。


「萩花の幸せは?」


「私……?」


突然向けられた質問に、言葉がつまる。


私はお母さんの幸せを見届けたら、消える。


それだけを考えて、今日まで息をしてきた。


「今度は、萩花が幸せになる番じゃない?」


最後にはぽとり、と音もなく、すべての重荷から解き放たれて軽くなった命の雫が、夜の優しい引力にそっと手招きされるようにして、地面へと還っていった。


「父親に助けられたその命、あんたはどう生きていく?」


碧くんが、新しい線香花火を私にそっと手渡した。


私は何も言えなかった。


暗闇に、再び小さな火が灯る。


「この短い命の中で、萩花はどんな火花を散らす?」
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