One year left -家族ごっこ-
碧くんが髪を無造作にかきあげた。


光を深く透かした琥珀色の瞳が、鋭い金色の輝きに変わる。


その眩しい双眸(そうぼう)が、上からじっと私を見た。


「萩花。海、入る?」


「……ううん。私は、ここで見てる」


声が、情けないくらいに小さく掠れた。


視線を逸らして海へ目を向けると、岳くんが頭から豪快に海へと潜っているところだった。


そして少し離れた場所から、勢いよく跳ね上げて顔を出す。


凛がそれを見つけて、楽しそうに声を上げた。


彼女もまた、白い腕で器用に水を掻いて岳くんの元へと泳いでいく。


息を弾ませた二人の笑い声が風に乗って届いた。


「じゃあ、俺も行かない」


碧くんは海で騒ぐ岳くんたちを一瞥(いちべつ)すると、すぐに視線を私へと戻す。


耳の奥で、自分の心臓の音がうるさいくらいに鳴り響いた。


「どうして?私のことは気にしなくていいから、碧くんも二人と遊んできて」


せっかくの海だ。


私のせいで、彼の夏を奪いたくはない。


どうか私に構わず、みんなと一緒に楽しんできてほしい。


そう思ったのに。


「萩花が行かないなら、俺は行かない」


彼は私の隣に、どさりと腰を下ろした。


胸が震える。


碧くんはなんの迷いもなく、当たり前のような顔をして、私と同じ場所にとどまることを選んでくれた。
< 207 / 354 >

この作品をシェア

pagetop