One year left -家族ごっこ-
「あの銀色の魚、うまそう」


隣から、低い声が降ってきた。


見上げると、碧くんが口元をわずかに緩めて水槽を見上げている。


「萩花は、どの魚が食べたい?」


「あの赤い魚」


「あれ、ニモじゃん」


「唐揚げにしたらおいしそう」


「可哀想に」


「嘘だよ」


思わず口元が綻ぶ。


私は再び、視線を青いガラスの向こうへと戻した。


「ここの魚たちは、いいね」


「何が?」


「外敵から守られてるから、碧くんみたいな猛獣に食べられる心配もないし。一生幸せに暮らせそう」


ふふ、と喉の奥で笑う。


碧くんがわずかに身を乗り出してきた。


耳元に、甘い声が落とされる。


「俺は、萩花しか食べない」


喉から肺へと続く気道が、ぎゅっと狭くなった。


岩場で交わした、あの不意打ちのキス。


唇に残る痺れるような感触が鮮烈に蘇り、耳の裏がひりひりと火照っていった。


顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
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