One year left -家族ごっこ-
「……そういうこと、言わないでってば」


視線だけで抗議する。


お母さんたちに聞かれていないか、冷や汗が出そうだった。


少し前を歩く二人の背中をチラリと盗み見ると、楽しそうに会話をしながら巨大な水槽を見上げていた。


安心して小さく息を吐き出し、私たちはその少し後ろをついて歩く。


「少し、肌寒いわね」


お母さんがわずかに肩をすくめて笑うと、おじさんがその顔を覗き込んだ。


「車まで、ブランケットを取りに行ってこようか?」


「いいえ。そこまでしてもらうのは悪いから、大丈夫よ」


お母さんはおじさんの腕にそっと手を添える。


「これ、使って?」


私は自分の肩から、薄手の白いカーディガンを滑らせた。


残っていた体温ごと、お母さんの肩へと掛ける。


「あら。ありがとう、萩花」


お母さんはそれを羽織り、おじさんを見上げてニコニコと微笑んだ。


「この子、昔から本当に気が利くの」


「そんなことないよ」


声を少しだけ明るく調(ととの)えて笑ってみせると、おじさんが私の肩へと視線を落とした。


「萩花ちゃんは、寒くないかい?」


「私は、大丈夫です」


おじさんは感心したように、目元を優しく緩めた。


「萩花ちゃんは、本当にお母さん思いの優しい子だね」


私は半袖になった。


冷房の風が剥き出しの腕を這いずって、肌に細かい鳥肌が立つ。
< 219 / 404 >

この作品をシェア

pagetop