One year left -家族ごっこ-
「……そういうこと、言わないでってば」


視線だけで抗議する。


お母さんたちに聞かれていないか、冷や汗が出そうだった。


少し前を歩く二人の背中を、チラリと盗み見る。


二人は楽しそうに会話をしながら、巨大な水槽を見上げていた。


安心して、小さく息を吐き出す。


そして私たちはその少し後ろを静かについて歩いた。


「少し、肌寒いわね」


お母さんがわずかに肩をすくめて笑う。


おじさんがその顔を覗き込んだ。


「車まで、ブランケットを取りに行ってこようか?」


「いいえ。そこまでしてもらうのは悪いから、大丈夫よ」


お母さんはおじさんの腕にそっと手を添える。


「これ、使って?」


私は自分の肩から、薄手の白いカーディガンを滑らせた。


残っていた体温ごと、お母さんの肩へと掛ける。


「あら。ありがとう、萩花」


お母さんはそれを羽織り、おじさんを見上げてニコニコと微笑んだ。


「この子、昔から本当に気が利くの」


「そんなことないよ」


私は声を少しだけ明るく調(ととの)えて、笑ってみせる。


おじさんが、私の肩へと視線を落とした。


「萩花ちゃんは、寒くないかい?」


「私は、大丈夫です」


おじさんは感心したように、目元を優しく緩めた。


「萩花ちゃんは、本当にお母さん思いの優しい子だね」


嬉しそうにそう言って、優しく微笑んだ。


私は半袖になった。


冷房の風が剥き出しの腕に容赦なく吹きつけて、肌に細かい鳥肌が立つ。
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