One year left -家族ごっこ-
「なんだか、少し喉が渇かない?」


お母さんが、ふと足を止めて呟く。


おじさんが周囲を見回すより早く、私は声を返した。


「さっきの通路に、自販機があったよ。私、買ってくるからここで待ってて?」


おじさんの方を向き、明るい声を作る。


「おじさんは、何がいいですか?」


「え、いいよ。俺が行くよ、萩花ちゃん」


おじさんが慌てて動こうとする。


私はそれを手で制して、優しく笑ってみせた。


「大丈夫です。すぐそこだから、待っててください」


「じゃあ、私はお茶をお願いね」


お母さんはニコニコと笑って、おじさんの腕にしがみつく。


おじさんは少し申し訳なさそうにしていた。


私は踵を返し、今来たばかりの薄暗い順路を逆方向に歩き出した。


「待って。俺も行く」


すぐ後ろから、碧くんがついてくる。


「あ、ごめん。碧くんが何飲みたいか、聞くの忘れちゃったね」


お茶を買うために、私たちは暗い通路を戻っていく。


その途中で、何組かの家族連れとすれ違った。


父親の大きな手にぶら下がるようにして、楽しそうに笑う小さな男の子。


母親の隣で、買ってもらったばかりのぬいぐるみを見せ合って笑う女の子。
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