One year left -家族ごっこ-
碧くんは水槽の並ぶ壁に目を向けたまま言う。


「母親に、自分で買いに行かせればいいんじゃないの?」


私は歩調を緩めず、彼の横顔を見つめる。


「いいの、私がしたいから」


そうして、少し困ったように笑ってみせると、彼は何も言わずに私の目をじっと見つめて返してきた。


その強い視線に射すくめられそうになり、慌てて前を向いた瞬間だった。


こめかみの奥が、ドク、と鋭く跳ねた。


頭の芯を細い針で突かれたような痛みに、冷房の冷気が肌の奥へと、深く染み込んでいく。


自動販売機の前に立ち、財布を取り出そうとしたけれど、頭痛のせいで指先がうまく動かない。


そのとき、横から長い腕が伸びた。


彼の大きな手が、硬貨を投入口へと滑らせる。


カラン、と音が響いた。


碧くんは何も言わず、ただ無造作にボタンを押していく。


取り出し口に、三つのボトルが落ちた。


大人たちの分の、冷たいお茶。


そして最後の一つ。


「はい、萩花の」


それを拾い上げ、私の手の中に押し込んできた。


手のひらに広がる、火照るような確かな温度。


冷え切った指先が、その熱さに驚いたようにピクリと跳ねる。


「……ありがとう」


見上げると、碧くんはもう歩き出していた。


広い背中が、冷たいお茶のボトルを二つ、片手で無造作に揺らしている。


私だけに手渡された、驚くほど優しい熱。


あたたかいボトルを両手で硬く握りしめ、彼の後ろ姿を追いかけた。
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