One year left -家族ごっこ-
「欲しいものとかは、ない?」


「私は、ないです」


そう言って、平然と笑ってみせる。


おじさんは一瞬だけ目を丸くしたあと、困ったように眉を下げて穏やかに微笑んだ。


「もっと欲張ってもいいんだよ? 萩花ちゃんのための旅行なんだから」


小さな子供をあやすような、おっとりとした口調。


おじさんの屈託のない優しさに息が詰まりそうになったそのとき、私のすぐ隣から、低く澄んだ声が降ってきた。


「あそこの上に、展望台があるみたいだけど」


碧くんが、大きなビルを見上げていた。


彼の視線の先、遮るもののない青空に向かって、大都会で一番高いガラス張りのビルがそびえ立っている。


「……じゃあ、展望台に登ってみたいです」


ぽつりと落ちた私の言葉。


「よし、行こう!」


おじさんは嬉しそうに声を上げた。


「いいわね。東京を一望できるなんて」


お母さんも楽しそうにパンフレットを広げている。


私は碧くんをそっと見上げた。


見上げる私を見つめ返す彼の涼やかな目元が、ふっと優しく細められた。
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