One year left -家族ごっこ-
案内された本社のバックヤードは、ホテルのように綺麗で、どこか整然とした冷気が満ちている。


通された会議室には、私の他にもいくつかの高校の制服を着た生徒たちが、緊張した面持ちでパイプ椅子に腰掛けていた。


スーツ姿の人事担当者が、プロジェクターに資料を映しながら、福利厚生や社宅の仕組みを丁寧に説明していく。


周りの高校生たちが未来への希望や不安を瞳に宿してペンを走らせるなか、私はただ、お母さんの前から消えるための具体的な数字と条件だけを、逃げ場のない渇きとともに頭に叩き込んでいた。


「では、実際の営業フロアをご案内しますね」


担当者がそう言って、耳元のインカムのボリュームを下げた。


数人の高校生の後ろについて、事務所からホールへと繋がる防音のための二重の自動ドアをくぐる。


最初のドアが開いた瞬間、隙間から漏れた音が鼓膜を小さく揺らす。


そして二つ目のドアが開いた瞬間、重低音とジャラジャラという金属音の津波が、容赦なく私たちを呑み込んだ。


眩しい照明と、渦巻く音の伽藍(がらん)。


すれ違うスタッフたちが、見学者である私たちに対して、綺麗に45度のお辞儀をしていく。


一人の大人としての丁寧な扱い。


隣を歩く女子生徒が小さく歓声を上げるのを他所に、私はただ、自分が本当にお母さんの元を離れて社会へ出ていくのだという、冷徹な現実を噛み締めていた。


数時間の行程をすべて終え、本社ビルのガラスのドアをくぐり抜ける。
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