One year left -家族ごっこ-
「私、ちょうど今からランチなんだけど、お昼もう食べた?」


「まだ。これから」


「じゃあ一緒にどう? このすぐ先に、ちょっとおすすめのお店があるんだよね」


碧くんが、チラリと私を見た。


嫌だ、と喉の奥が冷たく拒絶の声を上げていた。


碧くんの過去を知る綺麗な女性のなかに、私を混ぜないでほしい。


そんな生々しい感情が喉元までせり上がってくるのに、私はそれを器用に隠し、平然とした顔を取り繕う。


私は無言で小さく頷いた。


案内されたのは、コンクリート打ちっぱなしの壁に、暗いダウンライトが落とされた地下のイタリアンだった。


メニューを開いたそのひとが、慣れた手つきで店員を呼ぶ。


「私、日替わりのパスタランチ。ドリンクはアイスコーヒーで」


「俺は、ハンバーグプレート」


「私は、オムライスをお願いします」


声を弾ませることすら忘れて、笑顔を作ることもできず、注文を終えた。
< 239 / 354 >

この作品をシェア

pagetop