One year left -家族ごっこ-
やがてテーブルの上に、都会的な盛り付けの料理が並べられていく。


トングでパスタを小皿に取り分けながら、そのひとが昔を懐かしむような顔で笑った。


「本当に、びっくりした」


「俺も」


「まさかこんなところで会うなんてね。……元気だった?」


碧くんは、運ばれてきたスープのカップに手をかけ、一口飲んでから短く応えた。


「元気だった。星来は?」


星来、と、彼女の名前を呼ぶ碧くんの低い声。


その甘やかな響きに、私の内側が嫌な音を立てて激しく軋む。


フォークを握る指先が、微かに震えた。


「私は、毎日疲れてる」


そのひとは、ふふ、と冗談っぽく笑いながら、アイスコーヒーのストローをかき混ぜる。


カラン、と氷が乾いた音を立ててぶつかり合った。
 

「碧にずっと会いたいと思ってた。でも、私のわがままで上京しちゃったから、連絡もできなくて」


上京、という言葉が鼓膜に触れた瞬間、私の脳裏の片隅に淡い影を落としていた記憶が鮮明に蘇った。


バーベキューの日、悠生くんが私に告げた、碧くんの過去。


“碧が本気だった彼女がいたんすけど、その人引っ越しちゃったから、遠恋は続かなくて自然消滅、みたいな。”


パズルのピースが、恐ろしいほどの正確さで嵌(は)まっていく。


目の前でアイスコーヒーを揺らすこの綺麗な女性こそが、碧くんがかつて、本気だった彼女なのだ。


彼はハンバーグにナイフを入れたまま、何も言わない。


ただ、手元を見つめていた。


私は口に運んだオムライスの味が、全く分からないまま、ただ胃の中へ押し流した。


「お盆休みに帰省する予定なの。だから、近々連絡するね」


そのひとは半分ほど残したパスタの皿を下げ、伝票を手に取って席を立った。


都会の乾いた人工光のなか、あのひとが碧くんに残していった“過去の繋がり”という重い痕跡(こんせき)だけが、私たちのテーブルの上に、重苦しく居座り続けていた。
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