One year left -家族ごっこ-
碧くんはためらいもなく手を伸ばし、冷たいガラスの画面をタップする。


「……俺は、行かない」 


起伏のない静かな声が、冷房の効いたリビングに落とされた。


「え? 行かないの?」


「もう予定が入っているのか?」


お母さんとおじさんが楽しげな笑みを同時に消し、戸惑ったように眉を下げる。


「うん」 


碧くんはそれだけ短く応じると、躊躇なくスマホの画面へと視線を戻した。 


確信が、冷たい水のように私の背筋を伝っていく。


きっと、お盆休みにこの街へ帰ってくるあのひとと会う約束を、いま、その画面の向こうで交わしているのだ。


私を置いて、あのひとに会いに行くために。 


「そっか。碧くんが来ないのは残念だけど、しょうがないわよね」 


「そうだなぁ」


お母さんはあからさまに落胆した声を出し、おじさんと顔を見合わせる。


そうして、すぐに笑顔を私に向けた。 
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