One year left -家族ごっこ-
ドアをそっと押し開けると、薄暗いリビングのソファに、碧くんが深く腰掛けていた。


彼の大きな手には、ぽつんと白く光るスマホが握られている。


私は彼と視線がぶつかるのを恐れて、慌てて目を逸らした。


足音を忍ばせてキッチンの冷蔵庫を開け、冷えたミネラルウォーターのボトルを取り出す。


ガラスのグラスに水を注ぎ、喉を鳴らして一気に流し込んだ。


冷たい液体が喉を通っていく。


肌の表面は十分に冷やされたはずなのに、心の底が干からびた感覚は、少しも消えてはくれなかった。 


どれだけ冷たい水を注ぎ込んでも、私の内側の渇望は、どうしても癒えてくれない。  


グラスを握りしめたまま、立ち尽くしていたそのときだった。  


静まり返ったキッチンのなかで、碧くんの大きな手のひらにあるスマートフォンが、また、ブーッと短く震えた。
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