One year left -家族ごっこ-
鼻腔をくすぐる碧くんの匂いと、鼓膜の奥で小さく響く水音が、薄暗いリビングの静寂を甘く濁らせていった。


息が引きちぎれそうになるまで彼の熱を奪い尽くし、はぁ、と短い息を吐いて唇を離す。


繋がっていた銀の糸が、夜の人工光の下で一瞬だけ妖しくきらめいて切れた。


「あなたの、せいだからね」


瞳を大きく見開いたまま、嘘みたいに固まっている碧くんを背に、私は今度こそ自分の部屋へと走り去った。


部屋に駆け込み、バタンとドアを閉めて暗闇に背中を預ける。


激しく上下する胸の奥で、まだ彼の熱が暴れていた。


引き出しから取り出した桃色の貝殻が、私の指先の熱を吸い上げてなめらかに光る。


分かってしまった。


冷たい水をどれだけ流し込んでも癒えなかったこの渇きの正体を。


ただ、碧くんを、私だけのものにしたかった。
< 253 / 354 >

この作品をシェア

pagetop