One year left -家族ごっこ-

【脱獄】

まだ早い時間だというのに、地面からゆらゆらと立ち上る陽炎(かげろう)が、朝の景色を静かに滲ませていた。


おじさんの車のトランクに重い荷物が積み込まれる音を、私はどこか遠くで聞いていた。 


「それじゃあ、碧くん。行ってきます。冷蔵庫の中に三日分の作り置きが入っているから、ちゃんと食べてね」 


お母さんが名残惜しそうに、ひらひらと手を振った。 


「うん」 


碧くんは、開け放たれた玄関にただ静かに立って、私たちを見送る。 


「じゃあ、碧。留守番よろしく」 


おじさんの明るい声とともに、車のドアが重く閉まる。 


最後まで、彼の視線が私に触れることはなかった。


彼はただ、私のことだけが見えていないかのように、静かに前だけを見つめている。


一言も言葉を交わせないまま、車内を充たす冷房の冷気が、私の肌を凍らせていく。


碧くんの熱から遠ざかるように、車はゆっくりと動き出した。 
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